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【Night Tale】③

 
【Night Tale】  ③
 
 
 
「さて。それじゃあ、自己紹介といきましょうか」
 主にアキラとコノエに向けて口火を切ったのは、ゆらりと見事な毛艶を見せる黄金色の尾を揺らめかせるリビカ。先程屋根の上でライと立ち合っていた雌だ。
 あの後、四人が屋根から降りてきたと同時に木立の中から現われた新たな女性たちを加えた五人の女性たちを伴い、何を考えているのか、状況の掴めない自分たちを他所に移動する間も己の相方からは全く説明がないまま屋敷の主であるシキの、『影』と呼ばれる使い魔が用意した部屋に落ち着いたのだった。
 この屋敷にあるもののほとんどがそうなのだが、部屋にいくつか置かれた年代物の長椅子にそれぞれ思い思いに腰掛ける中、後から現われた女性三人はサキハとセシアの座る長椅子の後ろで控えるように佇む。
「私はセシア。見ての通り、リビカの大型種よ。後ろのこの子は私の賛牙。名前はユノよ。よろしくね、アキラちゃん、コノエちゃん。貴方たちのことは、こちらのギルドのハンターの間でも噂になってるの。会えて嬉しいわ」
 『噂』とは何なのだろうか。聞いてみたい気はするが、こういう場合止めておいた方が身の為だ。
 にこりと笑うセシアの後ろで軽く頭を下げたのは蒼灰色の髪に耳、尾を持つリビカの雌。耳と尾の形状からしてこちらは小型種のようだ。セシアの自分達の呼び方に少々気になるところがあるのだが、言葉の中にコノエにとって見過ごせない情報があった。後ろの猫は賛牙だと目の前の黄金色の猫――セシアは言った。コノエにとって自分以外の賛牙を見るのは、商売敵以外では初めてだ。知らず微かな興奮で尻尾が揺れる。
 次いで口を開いたのは黒衣の女性。
「私の名はサキハ。シキ殿と同じく吸血鬼だ。後ろの二人はアンナとユキ。私の部下だ。以後、お見知り置きを」
 ユノと同様に軽く頭を下げた女性二人の内、一人は肩で切り揃えた黒髪に紺碧の瞳であり、片割れは鮮やかなワインレッドの長めの髪を肩の辺りで結わえ、瞳は新緑色だ。纏う色彩は違うというのに、その顔の造作・体型は全くといっていいほど差異がない。双子か。
 更には髪の合間から覗く耳は先端に向けて尖っている。その特徴を持つ種族はエルフ。だが、通常純粋なエルフの体色は銀。ここまで鮮やかな色彩を持つエルフということは……この二人は『ハーフエルフ』なのだろう。シキ以外の吸血鬼に会ったのも初めてだが、エルフとはまた珍しい種族に会ったものだ。
 基本的に『人外』の種族は数が少ない。吸血鬼もそうなのだが、中でも最も数が少ないといわれているのが『エルフ』なのだ。その血肉にも魔力を宿すという性質ゆえ、古くは生贄の対象にされていたという歴史を持つ。そのため現在では純血種は極端に数を減らし、連動して混血種である『ハーフエルフ』も少ないのだという。
「それで、貴様らの用件はなんだ」
 コノエとアキラの座る長椅子の後方にある壁に凭れていたライが煩わしさを微塵も隠そうとせず、先を促す。どうやら彼女たちとはあまり関わり合いたくないらしい。先程からいつも以上に口数が少なく、纏う雰囲気も刺々しさを増している。
 ちらりとアキラがシキの方に視線をやれば、彼も同様のようだった。眉間の皺が心成しか、いつも以上に深い気がする。
「相変わらずせっかちねえ。それより、少しくらい説明してあげてもいいんじゃなくて?後で仔猫ちゃんに誤解されても知らないわよ」
「貴様とそんな間柄になるくらいなら、死んだ方がマシだな」
「相変わらず歯に衣着せないやつね」
「本心を言って何が悪い」
「まーー!可愛くない!そんなにツンケンしてたら、その内仔猫ちゃんに逃げられるわよ」
「フン。有り得んな」
 段々と応答するライの雰囲気が殺伐としてきているのに、対するセシアは飄々としたままだ。寧ろ、面白がっている節さえある。とある縞猫との遣り取りに似ているような気もするが、セシアとは初対面ゆえ、どうしたらいいのかコノエはわからなくて困惑してしまう。というか、その縞猫とのやり取りの経験上、このままではコノエ一人が赤面するような展開になりそうな気がする。頼むから、それだけは勘弁して欲しい。口喧嘩ならこちらに飛び火しない、どこか他所でやってくれ。
 段々とコノエの尾が不安げに揺れ始め出した頃、それに終止符を打ちつけたのはセシアの隣に座るサキハだった。
「セシア、久しぶりで遊びたくなるのはわかるが、いい加減にしないか。先に進めない。申し訳ない、ライ殿。代わって、私から説明しよう」
 指で米神を押さえるようにして溜息を零したサキハを隣で恨めしそうにセシアが見ていたが、構わず本来の用件を話し出す。ライの方もあっさりと引き、話を聞く体勢に入る。シキは元より口を開く気は無いらしく、アキラもコノエ同様どうしたらいいのかわからず動けないでいたし、背後の女性三人も会話に加わる気はないらしい。どうやらセシアさえ黙ってしまえば、面倒なことにはならないようだ。
「簡潔に言ってしまえば、今回の用件は『悪魔狩り』の依頼だ」
 思わぬ仕事の依頼に四人の表情が動く。
「こちらの、サウス・エリアで懸賞の掛かった案件でな。私たちで請け負ったはいいが、これが少々厄介な奴なのだ」
 そうは言うが、表情や声音には悔しさや焦燥、苦渋などは微塵もない。むしろ愉しそうな響きが込められている。それに何かを読みとったか、今まで黙っていたシキが珍しく愉悦も露わにサキハに尋ねる。
「貴様がそういうのならば……『貴族(デーモン)』か?」
「ええ。『伯爵』クラスではありましょうが…ですが、問題はそこでは無いのです」
 シキの問い掛けにこちらに説明していた口調とは違って随分と丁寧な物言いで答え、再び全員に向けて話を続ける。
「討伐を依頼された悪魔の数は四体。内二体を依頼を受けて直ぐに倒したのだが、翌日には再び四体に戻っていた。残っていた二体が分裂、または新たな悪魔が現われたのかとも思ったのだが、そのどれでも無かった。どの悪魔を倒したとしても、翌日蘇る悪魔は倒した悪魔とまったく同じものだったのだ」
「まさか蘇生するのか?」
 思わずアキラが問いかける。いくら悪魔といえど、生ある者。一度明確な『死』を迎えてしまえば、蘇ることは出来ない。それが摂理というものだ。瀕死のところを何らかの方法で他の悪魔が助けたのならともかく、先程のシキとライとの闘いを見ていてもこの二人がそんな隙を作るミスを犯すようには見えない。
「詳しくはわからない。だが、そこで私たちは奴らは『本体』の『影』ではないのかと仮説を立てた。『本体』が無傷である以上、『影』は何度でも再生する」
 高位の悪魔にもなると己の分身を作り出せる者がおり、それは『影』と呼ばれる。形状・能力の大小は『本体』の意思で自由に変えられるが、総じて本体以上の力を持つことは出来ない。『影』の時点で『伯爵クラス』ということは、『本体』はそれ以上の力を持つということ。
「仮に『影』だとするならば、随分と精巧ではあったけれどね。可能性が無いわけじゃない」
 サキハに諌められて今まで黙っていたセシアが肩を竦め、忌々しげに尾の先端で長椅子の座面を叩く。
「まあ、元々の依頼は四体の悪魔の討伐だ。『本体』があるのならば、それはそれで楽しめるだろうが、まずはこの四体をどうやって倒すかなのだ。一体ずつでは意味がないのならば、同時に倒すしかない。だが、こちらの人員の関係で二体は同時に倒せるが、四体同時はまだやっていない」
「依頼というよりは、手を貸せということか」
 凭れていた壁から離れたライがコノエたちの座る長椅子まで近付き、ローテーブルを挟んで反対側に座る二人を見据える。
「私たちと共闘できるハンターなんてあなたたち以外知らないし、悪魔狩りならば文句はないでしょう?」
「確認されている悪魔だけでもそれぞれ『伯爵クラス』。もし『本体』がいるならば、確実にそれ以上。十分請けて頂ける条件は揃っていると思うが?」
 確信犯的な笑みを浮かべるサキハとセシア。この二人に乗せられるのはどうも引っ掛かりを覚えるが、悪くは無い。実力や性格を熟知している以上、その辺の名も知らない有象無象の輩と組めと言われるよりは遥かにマシだ。鬱陶しい一方的な敵愾視や何やらに煩わされることもない。
 久々の愉しめそうな仕事に紅い瞳が細められ、口元が物騒な笑みに撓る。
「いいだろう。その話、請けてやる」

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