【Night Tale】②
【Night Tale】 ②
ガキン、と咬み合わされた二組の剣。一組は、長さは違えど同じ形状――太刀であり、もう一組は特徴的なフォルムの長剣と容易く折れてしまいそうに見える細剣。
空中で火花が散るほどの鋭さで剣が交錯されたと視認した次の瞬間には、剣を突き放した反動を利用し、ある程度の間合いを取って屋根の上へと着地していた。
降り立った人影は四つ。内二つはもちろん、先程迎撃に出たシキとライだ。だが、残り二つの影はアキラとコノエにとってはまったく知らない顔だった。
シキと対峙するのは長い黒髪を靡かせ、受ける印象が驚くほどシキと似通った女。身に纏うのは形状の違いがあれど、同じく黒。更には得物までもが同じく刀なのだ。
片や、ライと対峙しているのは黄金色の髪を波打たせているリビカの雌。豊満な身体の線をぴったりと浮き立たせるような衣を纏い、手には細剣。それでライの長剣を受け止めたなど、信じられなかった。
彼ら二人の力量はいやというほど知っている。出逢った当初からその強さは比類無きもので、純粋に憧憬を覚えてしまうほど鮮烈なものだったのだ。今も尚、その強さには磨きが掛かり、本人たちには口が裂けても絶対に言えるはずがないが、剣を振るう姿は自分達を魅了してやまない。共に在るようになってから、一番近くでその強さも剣技も見てきた。彼ら以上の技量を持つ者など知らない。だから、信じられなかった。彼らの剣を受け止め、尚且つ平然としていられるということが。それが『女』・『雌』の身でありながら、ということが。
屋根の上でシキとライ、そして正体不明の女性二人の視線が交錯する。おそらく、その場に止まっていたのは数瞬。実際の時間よりも長く感じられた沈黙を破ったのは、上空より降り注いだ亡者の奇声。
いつの間に着地していたのか。彼らの方に気を取られて過ぎていたという失態にアキラとコノエは内心舌打ちをしながら、自分の愛刀を構え直す。
あの二人が何者なのか、この状況は何なのか。知るのは後でも出来るはず。まずは邪魔な物を片付ける。
一瞬視線だけ互いに向けた二人は、耳障りな奇声を上げて己の癒えぬ渇きを埋めるため生ある者を喰らおうとしてくる亡者共を一掃すべく、渦中へと駆け出した。
「相も変わらず、これか。芸が無いな」
「下手な小細工を打つより、よほど貴方好みだったと思うが…違いましたかな?」
確信的に掛けられた問い掛けに大した応えも返さずに、シキは繰り出された太刀筋を弾き返す。だが、この程度の反動で姿勢を崩すような輩ではないことは十二分に知っている。そのままの勢いを殺さずに踏み込むが、捕らえるのは柔らかな血肉ではなく、硬い鋼の刀身。並の輩ならば、よしんばこの刃を受け止められたとしても、次戟で確実に胴を断たれている。しかし、返した刃は空を斬り、逆に相手の剣戟を受け止めることとなった。
腕は落ちてはいないようだ。シキの紅い瞳に愉悦の色が宿る。
手心を加えているわけではない。そんな気も更々無い。それでも、コレは『遊び』であった。
いつから始まったかなど、もう思い出すのも億劫なほど昔に始まった『遊び』。目の前の同族の女――サキハはある日突然ふらりと現れては、こうして闘いを仕掛けてくるのだ。互いに本気で斬り合う。それで死のうが殺そうが、構わない。しかし、そこに戦い特有の高揚感や緊張感はない。故に、『遊び』。
そこにいつからか、白猫やあの金髪の猫が加わった。そうある事ではなかったが、稀に白猫と仕事で鉢合わせするときに限って、必ずと言っていいほど奴らが現れて仕掛けてくるのだ。
だから、この気配を感じた瞬間にアキラたちには露払いを命じた。領域への侵入者の狙いなど考えるまでも無く、明白だったからだ。それでもまさか、この屋敷にいるときに仕掛けてくるとは思わなかったが。
「ふぅん…あの子が貴方の賛牙ね…随分と可愛らしい仔猫だこと」
絶え間ない剣戟の応酬の最中にありながら、他所に意識を向ける余裕がまだあるとは。微かな苛立ちを覚え、左に構えた短剣を懐へと走らせる。が、もちろんそれは容易くかわされる。半ば予想していた動きに揺らぐはずもなく、右の長剣で以って次戟を打ち込む。しかし、それもあっさりと見た目に反してかなりの硬度を持つ細剣に受け止められる。
「俺相手に余所見か。よほどその首を飛ばしたいようだな」
「おお、怖い」
殺気を多分に含んだ台詞に金髪の雌猫――セシアはわざとらしく首を竦めておどけた。
一瞬湧き上がった苛立ちを消すように、長剣を握る手に更に力を込める。だが、微かな苛立ちは余所見をされたことでも、軽口にでもなかった。己の賛牙を無遠慮に見ていたからだ。どうやら、己は相手が雌であっても許せないらしい。自覚はしていたが、これまた随分な独占欲だ。しかし、そんなこと他人の前では爪先ほども表には出しはしない。己の賛牙だけが知っていればいい。
況してやこの猫の前でだけは、出すわけにはいかない。微塵でも見せれば、最後。鬼の首を取ったような顔で嬉々としてじゃれだすからだ。その際の被害者はこの猫の性格を顧みれば、言うに及ばす。
斬るというよりは突くというような剣戟を繰り出してくるセシアをかわしながら、ちらりとライは地上へと視線を向ける。降り注いだ数十体いた亡者――十中八九、こいつらの仕業だ――はコノエとアキラの奮闘もあって、残り数体を残す所となっていた。放っておけばあの男の領域の影響で自然消滅するとはいえ、煩わしいことには変わりない。故に任せた。彼らが亡者如きに傷つけられる心配など、元より論外だ。体格と容姿ゆえ、他者に侮られることは頻繁だが、低級魔如きに遅れを取るような腕ではない。
そろそろ止め時か。
そう思ったのはあの男も同じだったようで、ほぼ時を同じくして彼女らの得物が空を飛んでいた。形状の違う二振りの剣が軌跡を描きながら落下していく。
「遊びはここまでだ」
「…貴方こそ、相も変わらず鮮やかで容赦が無い」
それぞれ眼前に切っ先を突きつけるが、当の本人たちに敗北や焦りの表情など浮かんでいない。形だけでも動きを封じているが、『遊び』の終わりを意味するだけのこと。ゆっくりと戦闘態勢を解いたことを受け、シキとライも己の得物を納める。
「ただ、遊びに来たわけではあるまい。何の用だ」
でなければ、態々この領域に無断で入っては来ないだろう。己よりも強い力を持つ者の領域に断りもなく入ることは、いくらそれなりに強い力を持つ者といえど、好き好んでやることではない。下手をすれば、何らかの傷を負うどころの話ではないのだ。力の差・領域形成の質などにもよるが、最悪の場合は先ほどの『亡者』のように『消滅』である。
そのような愚を冒す輩ではないことは明白。『遊び』は物のついでであろう。
「お見通しというわけね。まあ、その話は後で。とりあえずは下に降りましょう…ああ、それからシキ。『あの子たち』を入れてもいいかしら?」
にっこりとチェシャ猫のような笑みを浮かべたセシアが、ふわんと黄金色の尾を揺らす。昔からこの笑い方だけはどうも癪に障る。しかし、それを言ったところで何が変わるわけでもない。
「好きにしろ」
「どうも」
こいつらが持ち込んでくることだ。なんとなく碌な物ではないだろうと思いながらも、四人は下で待つアキラとコノエの元へと降りていった。
| 固定リンク
「某A SS 【Night Tale】」カテゴリの記事
- 【Night Tale】 ⑤(2009.09.14)
- 【Night Tale】設定(2008.03.16)
- 【Night Tale】④(2008.04.16)
- 【Night Tale】③(2008.04.08)
- 【Night Tale】②(2008.03.21)


コメント