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【〇/零】 01

王のいない城の深い深いその奥には、目を合わせると殺されるという「魔物」が住んでいる、といわれている。

【〇/零】 01

「いーち、にーい、さぁーん」

アキラは広いベッドに寝そべったまま指折り数えていた。彼の「主」が城を不在にしている日数は片手分から両手分になってから、やめた。つまらなく、その日数で余計にさびしく思えてしまうから。

「ごぉーお……たーくさーん」

どんなに汚しても、いつの間にか清潔に整えられてしまうシーツをアキラは悔し紛れに引っ張って無数のしわをつける。いま、アキラができることはそれだけ。

以前、癇癪を起して体中に傷つけて部屋を血で汚したこともあったけれど。アキラの主は何よりもアキラが自ら傷をつけることを嫌う。

怒らせることは好きだけれど、嫌われるのはいやだから、もうしないと決めた。

流れ出た赤い血はとってもきれいだったから、少し残念だったけれど。

血はいつも、アキラのもとに降り注ぐから、少しだけそれはアキラを満足させた。

「シーキィー」

鈍感になった感情だけれど、一つだけ前より鋭敏になった感覚がある。

主の気配だ。

固い音をたてて近づいてくる気配はまぎれもなくアキラにとってただ一人の主―シキ。

相反するお互いの血液が呼ぶのだろうか。これだけは、間違えることなどできない。

「シキ、はやく」

はやく。いつも通り。アキラを唯一外へとつなげる扉を開けて入ってきて。抱きしめて、いない間の悪戯で怒って。もう顔も覚えていない男の血を降らせてそこで乱暴に抱いてほしい。

それだけが、アキラの望み。

「シキィ…」

焦った足取りでアキラはベッドから起き上がり、必死に扉へと近づいた。最近ますます衰えてきた足は前以上にうまく動かず。あと、一歩のところで足をもつれさせ、無様に床に転がった。

そして、扉はアキラの出迎えを待たずに重い音をたてて、開かれた。

「主の出迎えもせず、昼寝か?アキラ…いい身分だな」

わかってて言っているだろうシキの声はいつもよりは楽しそうだったけれど、癪に障ったからアキラは顔を上げなかった。

足音はゆっくりアキラのもとに近づく。

「顔を上げろ、アキラ」

そう言われたけれど、アキラは顔を上げず、今度は横にそむけた。

「つまらん意地など張るな」

声と同時にそむけたアキラの顔にゆっくりと足が近づき、顎に差し入れられ。無理やり上へと向けさせられる。

アキラの目に入るのは主の顔。

まっすぐにアキラを見据える赤い瞳の冷たさにアキラは微笑んだけれど。すぐに、その表情は怒りに変わった。

片手で、荷物のように主がアキラの知らない人間を抱えている。まだ、アキラが。主がここへ帰ってきてから一度も触れることも出来ない腕に抱えられている。

「なんっ、…だよ、それ」

「拾ってきた。お前の暇つぶしにやろうと思ってな」

「いらない、そんなの。いらない、はなれろよ、なんでそこにいるんだよ」

アキラがどんなに揺さぶってもびくともしないシキにますますアキラの感情が煽られる。

「オレの、そこはオレの…シキ、シキィ…」

人形のようにピクリとも動かず抱えられていたそれを引きずり落とそうとアキラが引っ張るとシキの手はいともたやすくそれを離した。

軽い振動がして、床に転がされたそれを尻目にアキラは先ほどまでそれを抱えていた腕を抱きしめる。

ようやく自分のものになったそこに思う存分自分の腕をからめ、アキラはもう一度シキの瞳を真正面から見つめて、いつも通り呟いた。

「おかえり…」

―と。シキからの返答はないけれど、それで満足して抱きつくと、軽いアキラの体はいともたやすくシキの腕の中におさまり、抱えあげられた。

「今度はどいつと『遊んで』いたんだ?」

「さぁ。シキいがいなんておぼえてられないよ」

クスクスと笑うアキラの唇にキスを一つして、シキが移動をすると、アキラはうれしそうにさらにシキの首にしがみついた。

「ねぇ、シキ。アレ、なぁに?」

白い指が指すのは灰青の髪をしたやせ細った子供。

「『まもの』と言っていたな」

「ふぅん…オレも『まもの』なんだって」

「あぁ、そうかもしれんな」

シキの応えにアキラは嗤い、シキの髪をゆっくりとかき混ぜ。長い前髪でよく見えない邪眼のような赤い瞳を暴く。

「それから、オレのまえにもいるよ。『まもの』」

シキの赤い瞳に自分の姿が映るのがうれしくてさらに覗き込むとシキはまた、笑い。強く抱きしめた。

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